Q&A

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「オランウータン」とはどんな意味ですか?
オランウータンは、森の人という意味です。インドネシア語やマレー語で、「オラン」が人、「ウータン」が森というという意味になります。例えば、日本人ならば「オラン・ジュプン」となります。しかし、この名は外国人がつけたもので、現地の人々が古来使っていたものではないとの説もあります。実際に現地ではKogiu、Kahui、Kisau、Maiasなど、それぞれの民族が異なる名前でオランウータンのことを呼んでいましたが、今では現地でも「Orang-Utan」という呼称が最も使われています。
寿命は何歳ですか?
正直言って、オランウータンの寿命はまだわかっていません。
最近では、スマトラの野生オランウータンの寿命は、少なく見積もってもオスで58歳以上、メスで53歳以上(53歳の時点で赤ん坊を連れていてまだ健康だったので、それ以上生存している可能性大)、という報告があります(Wich et.al. 2004)。
飼育下での世界最高齢は、ボルネオオランウータンでジプシー(メス・多摩動物公園)推定62歳(2017年没)、
スマトラオランウータンでも、Puan(メス・パース動物園)が推定62歳(2018年没)(ギネス記録より判断)です。
また、オスの飼育下世界最高齢はボルネオオランウータンのJojo(シンガポール動物園)で推定61歳(2018年没)です。
オランウータンは賢い動物ですか?
オランウータンはチンパンジーと並んでヒトに次ぐ高い知能を持っています。
手話やサイン言語を使ったり、鏡に映った姿が自分だと認識できる(鏡像認知)、など基本的にチンパンジーでできることはオランウータンもすることができます。またオランウータンは野生下ではほとんど道具を使いませんが、飼育下やリハビリテーションセンターでは、非常によく道具を使います。
チンパンジーの方が遺伝的にヒトに近いので、オランウータンより賢いだろう、と思われることがあります。しかしオランウータンよりヒトに遺伝的に近いとされているゴリラの方が、鏡像認知をうまく行うことができない、などオランウータンよりも認知実験の結果が悪い、という傾向があります。
最近は、チンパンジー、ボノボ、オランウータン、ゴリラの大型類人猿4種を対象に、同じ実験を行って比較する研究が盛んになってきています。今後は「オランウータンの知性」についても多くのことが明らかになっていくでしょう。
天敵は何ですか?
最も強力な捕食者はずばり、人間です。
現在、オランウータンは人間の様々な活動によって絶滅の危機に瀕しています。しかし、人間とオランウータンのこうした関係は、最近始まったことではありません。少なくとも1万年前まではオランウータンはタイ、マレーシア半島、ベトナム、中国南部などのアジア大陸にも生息していました。これの地域に現在オランウータンが生息していないのは、人間に大量に狩猟されたことが一因だろう、と言われています。いくつかの遺跡では、たくさんの有締類の骨と一緒にオランウータンの歯が大量に出土しており(Dobois, 1922; Hooijer, 1948)、当時の人間にとって、オランウータンも主要な狩猟対象だったと考えられています。
他にはウンピョウ、スマトラトラ(スマトラ島にのみ分布)がオランウータンの捕食者として考えられています。リハビリテーションセンターでは、コドモのオランウータンがニシキヘビに食べられてしまったこともあります。しかしコドモはともかく、体が大きく力の強い、しかもほとんど樹上にいるオトナのオランウータンを捕食することは、人間以外の動物には非常に難しいでしょう。
どんな病気にかかりますか?
基本的に人間がかかるすべてのほぼすべての病気にかかると思います。野生下でも結核、肝炎、日本脳炎、テング熱、マラリア、おたふく風邪などに感染していることがすでに報告されています(Wolfe et. al. 2002, Kilbourn et. al. 2003)。飼育下では腎不全や肺炎、ガン、糖尿病などもあります。セピロクでは肺炎や気管支炎、寄生虫にかかる個体がとても多く、寄生虫がもとで死亡した個体もいました。
オランウータンは握力が300kgあると聞きましたが、本当ですか?
オランウータンの握力が300kgという話を聞くことがありますが、根拠は明確ではありません。確かにオランウータンは大きな体で樹上生活をしており、体重80kg以上あるオトナのオスでも、指1本だけでぶら下がることができます。握力はヒトよりもはるかに大きいだろうと予想できますが、握力200kg、300kgといった値の根拠になるような科学的なデータは、私の知る限り、まだ発表されていません。
「ロング・コール」ってどんな音声ですか?
フランジのオスだけが発するもので、ぶくぶくと泡立つような音で始まり、叫えるような声で終わる音声で、800m先まで届きます。1~2分間が続くのが普通ですが、数十秒で終わってしまうこともあります。自分の存在をアピールして、他のオスを牽制すると同時に、メスをよびよせる機能があるだろうと言われています(Mitani 1985)。
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オランウータンは一夫多妻ですか?
おそらく(性的二型が大きい=オスがメスよりもずっと大きいので)、もともとは一夫多妻だった可能性が高いですが、現在は実質的には乱婚と考えられています。
オランウータンのメスは6~9年に1度しか発情しません(受胎可能な状態になりません)。メスは発情の時期をむかえると、1ヶ月1回、2~3日間だけ受胎可能になり、この時は自分からオスの方に近づいていきますが、普段はオスを避けて生活しています。オスは常にメスに近づこうとしていて、時にはメスをおさえつけて無理矢理交尾をすることもあります(このような交尾をレイプとよぶ研究者もいます)。オランウータンにはチンパンジーのような性皮がないので、メスが受胎可能でなくても、交尾が成立します。特にボルネオでアンフランジのオスが高い頻度でこのような強制的な交尾を行いますが(Mitani 1985)、メスに深刻なケガを負わせることはありません。
受胎可能なメスは複数のオスと交尾をしますし、フランジのオス(強いオス)でもメスを完全に他のオスからガードすることはできません。その一方で、フランジもアンフランジも複数のメスと交尾できます(同じ理由で他のオスに邪魔されることが少ないからです)。また長期研究が行われているスマトラでのDNA解析を使った父子判定の結果からも、コドモの父親は様々で、特定のオスがほとんどのメスを独占しているとか、メスがいつも同じオスとの間でコドモを作っているている、といった結果は得られていません(Utami et. al. 2002)。
オランウータンには縄張りがあるんですか?
縄張りはありません。同じ地域を複数の個体が同時に利用することができます。1頭の木に2頭のオトナメス、2頭のオトナオス、2頭のワカモノ、合計6頭で採食していた例を私も観察したことがあります。ケンカもほとんど起こりません。
ただ、フランジのあるオス同士だけが敵対的で、普段は互いに相手を避けて生活しています。稀に発情したメスの近くでフランジ同士が出会い、激しい闘争が起きることがあります。オス同士のケンカがもとで死亡した例も報告されていますし、傷のあるフランジのオスが多いことからも、フランジのオス同士の間には非常に厳しい敵対関係があるといえます。しかしフランジのオスはアンフランジに対しては非常に寛容で、一緒に同じ木で採食することもあります。
一日にどの位移動しますか?
1日の平均移動距離は500m前後ですが、100m程度のことも珍しくありません。一方で1日に2km以上移動することもあります。フランジのオスは比較的短い距離しか移動せず、若い個体は長い距離を移動する傾向がありますが、同じ個体でも日によって大きく変わります。
オランウータンはヒトに最も近い動物ですか?
ヒトに最も近いのは、オランウータンではなく、チンパンジーです。
チンパンジーとヒトの共通祖先が別れたのはわずか600万年前ですが、オランウータンとヒトの共通祖先が別れたのは1500万年も前です。つまりチンパンジーはオランウータンよりも人間と近縁な関係なのです。わかりやすく例えるなら、人間とチンパンジーは同じアフリカで生まれ育った兄弟、オランウータンは遠いアジアで生まれた従兄弟、といえるでしょう。
オランウータンは肉を食べますか?
オランウータンの肉食については、スマトラ島ではスローロリス、ボルネオ島ではスローロリスやリスの死体を捕獲して食べる様子が観察されています(et al.,2012 ;Buckley et al.,2015;Makur et al.,2022)。しかし、いずれもチンパンジーと比べると肉食の頻度はとても低いです(肉食は、1年間に1頭につき、1-2回程度しか観察されていません)。基本的に野生の霊長類は葉や果物など生の植物から十分な栄養をとることができます。
野生では単独行動をすると言われていますが、動物園では複数頭で一緒にいる様子も見ます。これはなぜ可能なのでしょうか?
野生のオランウータンが単独生活を送っているのは、彼らが生息するボルネオ島やスマトラ島には、アフリカなどと比べると果物が少ないためと考えられています。果物が豊富に実る「一斉結実」という時期には、一本の木に複数のオランウータンが群がっている様子も観察されているため、他の個体と同居できるだけの社会性はあると考えられます。食べ物が豊富にある動物園においては、むしろ他個体との同居が適度な刺激になると考えられています。
オランウータンは絶滅の危機に瀕していると聞きましたが、今、野生のオランウータンは何頭ぐらいいますか?
スマトラ島には、スマトラオランウータンが約13,000頭以上、タパヌリオランウータンが約800頭以下、ボルネオ島には約57,000頭以上が生息していると推定されています(Wich et. al.,2016;Orangutan Population and Habitat Viability Assessment 2016, 2019)。ちなみに有史以前にはスマトラには38万頭、ボルネオには42万頭、マレーシア半島に34万頭、ジャワ島にも少なくとも10万頭のオランウータンが生息していたと考えられます(Rijksen & Meijaard, 1999)。またジャワ島からオランウータンが絶滅したのは、17世紀だっただろうと言われています(Dobson, 1953)。